夢と記憶の話

イオンモールの戦い

■夢と記憶の話イオンモールの二階で僕はダース・ベイダーと戦っていた。ライトセーバーが唸りを上げて宙を切り、青と真紅の光の残像とともに打ち合わされる。そばには七階まで続く巨大な吹き抜けが口を開け、僕が落ちていくのを手ぐすねを引いて待っている。…

家族の生活

■夢と記憶の話日が落ち始めた頃、僕は家を追い出される。古いアパートの軋む階段を降りて道路に出ると、小さな子供が一人でポツンと立っていた。ここにいたら車に轢かれてしまうかもしれないし、迷い子かと思い声をかける。するとその子は細い紐につながれた…

雨の目録

■夢と記憶の話I.暖炉 暖炉飾りの上に暗い雲が置かれている。薄い水蒸気の膜に大理石模様を透かし、冷ややかなうねりの間から渦巻く光を滲ませて、迫り来る嵐の予兆を告げる。II.額縁 集めるべき眼差しを失った額縁達。炉棚に並び、肖像を持たず、日焼けした…

五月

■夢と記憶の話五月の黒い水に浸かって産声を上げる夢を見る君は生まれたときに何を感じたの?君は生まれたときに何を思ったの?五月の暗い廊下の先で踊り子人形は回り続けるオルゴールから零れる音楽に合わせその影はくるくる部屋を包み込む君は生まれて嬉し…

ノアの海底二万里

■夢と記憶の話「272階まで潜るには氷が28個必要だ」映像の乱れた青白く点滅するモニター越しに博士が言った。僕達は薄暗い放送室を飛び出し、僕は理科室へ、彼女は3階の教室へと氷を探しに走り出した。校舎をつなぐ廊下の窓から外に目を向けると、辺りは全て…

夏の終わりの授業

■夢と記憶の話明るい教室の中で、高校生の僕は授業を受けていた。きれいに掃除された黒板には30センチ四方の写真が5枚並べて貼られている。それは人間のある動作を時系列に沿ってそれぞれ写したものだった。先生が教壇に立ち、僕たちに向かって授業を進める…

朝を迎える

■夢と記憶の話居間の長椅子に仰向けに横たわる父の左足から、石油が染み出していた。それは少しずつ踵の先から滴り落ちて、床に広がり、隣り合った台所を抜け、子供部屋に流れ着く頃には、向こう岸が見えないほどの青黒くぬらぬらとテカった川となっていた。…