イオンモールの戦い
■夢と記憶の話
イオンモールの二階で僕はダース・ベイダーと戦っていた。ライトセーバーが唸りを上げて宙を切り、青と真紅の光の残像とともに打ち合わされる。そばには七階まで続く巨大な吹き抜けが口を開け、僕が落ちていくのを手ぐすねを引いて待っている。プラズマが吹き抜けの欄干に触れるたびに火花が散り、金属の手摺が切り裂かれた。
「無駄な抵抗はやめろ、お前は私に敵わない」
漆黒の甲冑の奥から、呼吸の排気音の混じるくぐもった声がする。
確かにまだ訓練も終えておらず、僕はジェダイではない。それに力尽きる寸前で、剣戟の経験も、フォースの力でもはるかに敵わない。身体中が痛み、息が乱れる。恐怖を制御しなければ。風が穴の底から吹きあがり、目の前でマントがはためいている。
「怒りを解き放つのだ、私を倒せるのは憎しみだけだぞ」
戦いのさなか、まるで手を差し伸べるように彼は暗黒面へと僕をいざなう。
離れて戦ってはいなされるだけだ。最後の力を振り絞り、全身でぶつかっていく。打ち合わされた光刃がお互いの胸の前で十字に交わり、ベイダー卿は一歩後ずさった。するとちょうどそこに、下りエスカレーターの入り口が開いていた。
突然、僕の破滅的な戦いが終わった。思いもよらず踏段に乗り上げてしまったダース・ベイダーは、どんどん一階へと降りていく。彼は右手をかざし、エスカレーターを逆流させようとする。だけど彼の強力な暗黒のパワーをもってしても、エスカレーターを逆向きに動かすことができない。
「私の元にくるのだ、それしか方法がない」
低く怒りに満ちた声が響く。
イオンモール二階、エスカレーター前の踊り場から遥か一階彼方へと彼の姿が遠ざかる。僕はただ立ち尽くし、それを眺めていた。誰が行くものか。吹き抜けから、一階のスターバックスが目に入る。この光景になぜかどうしようもなく可笑しくなり、傷だらけのままお腹を抱え、とめどなく声をあげて笑った。
「逃げるのか、卑怯者!」
微かに聞こえた最後の言葉。そして、自分の笑い声で目が覚めた。