嵐の王様

■お話

毎年この季節が近づくと
誰も彼もが慌ただしく
トントンカンカン忙しく
板を窓に打ち付ける

あの御方がやって来る
皆の名を呼びながら
あの御方がやって来る
新しい名を呼びながら

暖かい風が吹き始め
枯れた枝を震わせる
か弱い小さな瞳が
誘われ顔を覗かせる

冷たい雨が降り始め
森がザワザワ唸りだす
それでもそれでも子供達
無垢に野原へ走り出す

嵐の王様がやって来る
風をとんびのように纏い
嵐の王様がやって来る
雨を宝石のように散りばめて

子供達子供達
優しい声が君を呼ぶ
もしも後ろを振り返ったなら
誰も君にもう会えない

毎年この季節が近づくと
子を持つ親は慌ただしく
アタフタバタバタ忙しく
子供を家に閉じ込める

閉ざされた窓を風が鳴らし
雨が激しく屋根を打ち付ける
吹き荒ぶ嵐は絶え間なく
今にも家は壊れそう

家の中で大人は震えてる
家の中で大人は怯えてる
それでも部屋の中の子供には
美しい音楽が聞こえてる

誰かが扉をノックする
君の名前を呼びながら
誰かが扉をノックする
君の他には誰も聞こえない

大人は目を閉じ耳を塞ぐ
音楽は少しずつ遠ざかる
君は小さな隙間を見つけ出して
こっそり家を抜け出した

それでも僅かに間に合わず
皆は遠くへ去っていく
楽しそうなこだまが尾を引いて
君は次の嵐を待ち侘びる