あんこ丸と家族会議

あんこ丸はまっしろな秋田犬。
みんなからあーちゃんってよばれている。
でもおとうさんとわたしだけ、
いつもあんこ丸ってよんでいる。

あんこ丸はおばあちゃんによばれると、
あまえさせてくださいってのどをならす。

おかあさんによばれると、
なにかくれるんですかってしっぽをふる。

おとうさんによばれると、
またぐちですかってちょっとめんどくさそう。

おねえちゃんによばれると、
いたずらはしてませんよってまじめがお。

わたしがよぶと、
あいてをしてやるかってのそのそおきあがる。

ことしで10才になるおじいさん犬だけど、
雨の日も風の日も毎日毎日おなじように、
朝と夕方のお散歩はかかさない。
それでもじっと立っているとうしろ足が、
ぷるぷるとふるえるようになった。

あんこ丸がはじめてウチへやって来たのは、
うまれてから3ヶ月目のことだった。
りょうてでだっこできるほどの大きさで、
みみがぺたんとたれていた。
いまではピンクのしめったおおきな鼻も、
そのころはまっくろなまるいボタンに見えた。

あんこ丸には生まれた家できめられた、
むずしい漢字のなまえがついていた。
でもせっかくウチにやって来たのだから、
あたらしくウチの子になるのだからということで、
あんこ丸がやって来た日の夜に、
家族会議がひらかれた。

あんこ丸はころころ太っていて、
からだをつつむやわらかい毛はまるで、
犬のにおいのする綿あめのように、
ふわふわとあたたかくやわらかかった。

それを見ておばあちゃんが、
「この子はだいふくみたいだね
おじいちゃんはだいふくが大好きだったのよ」
といった。

「それじゃあだいふくにしよう」
わたしはすこしとくいげ。

「うん、まるまるともちみたいだな
でもだいふくじゃかわいそうだろ」
おとうさんはちゃんとした名前がいいみたい。

「わたしはまめだいふくが好きなのよね」
おかあさんは甘いものが大好きだ。

「なんですきな食べ物のはなしをしているの
ちゃんとまじめに考えて」
せっかちなおねえちゃんがちょっとおこった。

「それじゃあまめ丸は」
丸がまんまるなからだにぴったりだ。
それにわたしはおかあさんが大好きだ。

「まめなんてよばれたら
この子も大きくなりずらいだろ」
まじめなおとうさんがいった。

「わたしはいいと思うけどな」
おねえちゃんはきにいったようだ。

「まめねぇ、、、」
おかあさんはぴんとこないみたい。

思い出したようにおばあちゃんが、
「おじいちゃんはまめが苦手だったのよね
だいふくはやっぱりあんこともちだけの
ふつうのだいふくがいちばんだって」
といった。

たしかにいっていたきがする。

あんこ丸はすみにおかれたケージのなかで、
すやすやとちいさな寝息をたてていた。

「こうして見るとまめだいふくというよりは
ふつうのだいふくに見えるな」
おとうさんはまめも甘いものも苦手だ。

「そうねぇ、、、」
おかあさんがうなずいた。

「まめはだめか」
すこし残念がるおねえちゃん。

「おなかへった」
とはわたし。

こうしているうちにわたしたちのあたまのなかは
だいふくでいっぱいになった。

あんこともちのふつうのだいふく。

だいふく丸
なんかいいにくいからきゃっか。

もち丸
ぷくぷくふとってたいへんそうだからきゃっか。

そうしてまっしろな体にはあわないけれど、
おじいちゃんが好きだったということで、
はじめての家でむかえるはじめての夜に、
あんこ丸はあんこ丸になって、
わたしたちの家族のいちいんになった。