大工

■お話

あるところに大工がいた
彼はとても器用だったので
どんな家も建てることができた
大きな家きれいな家立派な家
彼の腕前はあまりに評判で
いつも誰かのために忙しく
家をコンコンギコギコ建てていた

ある時一人のお客がやってきた
コツコツ貯めたお金を持ってやってきた
寝る間を惜しんで働いて
食べるのも惜しんで働いた
それでもあまりに貧しくて
服はボロボロ靴は底抜け
わずかなお金を持ってやってきた

大工はそれを見て驚いた
こんなに貧しいお客は初めてで
追っぱらってしまおうとも考えた
でもあまりにみすぼらしく
ささくれ立った手の中の
真っ黒になったお金を見た時に
助けてあげたいと思い始めた

そして大工は頭をかかえこんだ
こんなにも少ないお金では
玄関しか建てることができないだろう
あるいは屋根しか家の土台しか
余りものの木材を集めても
道に落ちてる釘を集めても
とても一軒の家には間に合わない

大工は三日三晩考えた
寝ることを忘れて考えた
食べることも忘れて考えた
ウトウト眠りが夢を呼び始めた頃
小さなお客が大工の足元にやって来た
鼻をヒクヒクさせながら
チョロチョロと工具箱に一目散

どこから家に入って来たのだろう
大工はきょろきょろ部屋を見回した
そしてのっそりと立ち上がり
工具箱を静かに覗き込む
使い古しの汚れた布切れが
カフカ豪華なベッドのよう
小さなお客がその上で眠ってる

とたんに大工はひらめいた
貧しいお客の小さな体に合った
小さな小さな家を建てようと
余りものの木材をかき集め
道に落ちてる釘をかき集め
少し足りないお金を忘れてあげたなら
きっと貧しいお客の家が建つ

翌日から大工は頑張った
人助けをしてると思うと気分よく
コンコンギコギコ夢中で働けた
貧しいお客が喜ぶために
コンコンギコギコいちにちじゅう
そしてあっという間に家が建つ
とてもとても小さいけれど立派な家が

小さいけれど立派な玄関
小さいけれど立派な煙突
小さいけれど立派な寝室
貧しいお客はそれはそれは喜んだ
それを見て大工もとても喜んだ
どこの街を探してもどこの国をまわっても
こんなに小さく立派な家はないだろう

たちまち小さな家のうわさが広まって
一目見ようと街中から人が集まった
貧しいお客はほこらしく幸せそう
大工もそれを見てとても嬉しそう
そしてそれからというもの
小さな家を建ててくれるよう
大工のもとにたくさんのお客が集まった

大工はさらにさらに大忙し
毎日コンコンギコギコ目が回るほど
小さな家をどんどん建てていく
お客のために建てていく
そして小さな小さな家を建てるほど
お客はとてもとても喜んだ
とてもほこらしく幸せそう

日差しの強いある日のこと
雲一つない空が輝くある日のこと
大工は手を止めふと考えた
自分だけの小さな家が欲しいと考えた
こんなに立派な家を建ててるのに
大工の家はとてもみすぼらしい
誰も大工の家を見て喜ばない

その日から大工は自分のために働いた
自分のために忙しく働いた
小さな小さな家を建てるほど
さらに新しいお客が集まって
立派だと口をそろえて褒めていく
大工はそれを見てほこらしく
大工はそれを聞いて幸せそう

家を建てれば建てるほど
どんどん小さな家が建つ
もっともっと小さくもっと
とうとう米粒よりも小さな家が
何百何千数え切れないくらいに建ち並び
大工のみすぼらしい家のお庭には
ついには小さな小さな街ができた

どこの街を探してもどこの国をまわっても
こんなに立派な街はないだろう
こんなにきれいで素晴らしい街はないだろう
大工はとうとうやり遂げた
生まれて初めて満足する仕事をやり遂げた
全ての力を使い果たし全ての気力を使い果たし
コンコンギコギコ音を立てることもなくなった

大工はそれからいちにちじゅう
庭の隅に座っていちにちじゅう
庭の小さな小さな街を眺めてた
寝ることを忘れて眺めてた
食べることも忘れて眺めてた
それでもあまりに幸せで
大工の心はとても安らいだ

大工の庭の小さな小さな街は
たちまち街中のうわさになり
さらに多くの人が集まった
その中には見知った顔も多くいた
大工が家を建てたお客の顔が
あの貧しいお客の顔もそこにいた
でもだれも大工を心配しなかった

うわさが広まるのは早いもの
あっという間に国を越え広まった
家から家へ子供のように
道から道へ馬のように
街から街へ風のように
国から国へ太陽のように
ひと月もしないうちに皆に広まった

そしてあらゆるとこから人が集まった
なかには自分の家を持ちたくて
なかには金儲けをしようと考えて
なかにはお祭り騒ぎをするために
なかにはただ皆に流されて
なかには自分の家と比べるために
なかには疑い馬鹿にするために

多くの人が集まった見物するために集まった
誰も大工を気にしたり誰も大工を見たりせず
ただの貧しいお客としてほっておいた
たくさんの人が大工の庭に詰めかけて
小さな小さな街を見ようと押し合った
誰もが押し合いへし合いしてるうち
小さな小さな街はいつの間に
皆の皆の靴の下