駐車場

■お話

いつもなにげなく通り過ぎる駐車場に
ある日なにげなく目を向けた
するとまだ新しいコンクリートの車止めに
すらっと長い尻尾が生えていた
気持ちよさそうに朝の淡い光を浴びて
パタパタと気ままな拍子をとっていた

またある日のことなにげなく目を向けると
尻尾に加え毛深い手足も生えていた
お腹の下に後ろ足を仕舞い、前足を丁寧に胸に添えて
静かにそっとたたずみながら 
ときおり体にそって丸めた尻尾の先を
返事をするかのようにちいさく振った

そしてついさっきのことだけど
暮れ始めた空の下
何故か胸がとてもざわついて
いつも歩き去る道に足を止め 
何かを探すように駐車場に目を向けた

するとコンクリートの車止めはいつの間に
一匹の猫になっていた

銀色のヒゲにピンと張った耳
ピンク色の鼻の先には丸く透き通った輝く瞳
まっすぐに伸ばした前足をちょこんと後ろ足に付け 
すこし丸めた背中から首筋を宙に向け 
澄んだ顔でじっと辺りを見つめながら  
誰もいない空っぽの駐車場で独り 
誰かを待つように座っていた

思わず見とれていると 
立ち止まる僕に気付いたように
顔をこちらへ向けることもせず
僅かに尻尾を持ち上げて
アスファルトの固く暖かい地面を 
音もなく優しく叩いた

その瞬間不意に僕は 
この一匹の猫のそばで
二人しかいないこの街で
繰り返す見慣れた景色の中
もうすこし踏みとどまりながら
また同じ明日を迎えることが
できるのではないかと感じた