小さな王様

お話

その拍子は歩みの拍子 とことこと
ゆったりとマントを引き摺って
時にはお尻で裾を跳ね上げながら
首を覆う半月を描く豊かな黒い襞襟を
丸く膨らんだ気高い胸に飾り
繊細な刺繍が施された足先で
頷きながら小さな威厳を振り撒き歩く
忙しく駅へと向かう人の群れの中
精巧に結われた王笏を翼に折り畳み
身を包む滑らかな衣を光に揺蕩わせ
高貴な魂を目に湛え悠然と背筋を伸ばし
触れえぬ権威を示すため頭上に王冠を翻し
自らの足で軽々と戦い得た地を巡る

その歩みは拍子の歩み とぼとぼと
重たく気怠い足を引き摺って
ポケットに悴む手を詰め込みながら
肩を窄め強張る唇から白い息を漏らし
窓や葉が映す霞がかる明かりに目を細め
冷たい風に曝された無防備な耳を
輝く道と満ち始めた朝の喧騒に澄まし
少しずつ集まり来る人の列の中
鈍感な体を考える間もなく揺らす
コートの裡に委ねられた務めと日々に
仕舞い込まれ忘れ去られていく自らの姿
見失うと思ったその先に不意に舞い降りた
交わることのない一羽のハクセキレイ