■思い出

静かな白線の内側に立ち
真っ白な頁に目を落とす
頁の上に淡い日が落ちて
文字は四月の光を帯びる

宙に溶け出す満ちた気配
アナウンスが短く鳴響く
人の疎らな広いホームに
車両が連なり入って来る

にわかに風が巻き起こり
手の裡の頁がはためいた
指に優しく触れる文字は
掬い上げられる時を待つ

緩やかに車両は遅くなり
溜息と鈍い身震いを残し
その身を静かに横たえた
目前で勢いよく扉が開く

如何にも男が降りてきた
勝ち誇ったように全身で
両手を頭上に突き上げて
高らかに腹の底から叫ぶ

「此処は地球だ!」

僕は確かにと思い頷いた
靴底には見慣れたホーム
寝息を立てる言葉を手に
旅立つために乗り込んだ